不動智神妙録(ふどうちしんみょうろく)は、江戸時代初期の禅僧、沢庵宗彭(たくあんそうほう)によって執筆された書物です。寛永年間、特に寛永15年(1638年)頃に成立したと考えられています。この書は禅の立場から、剣術や兵法に関わる心の持ち方、特に勝負の際の心の在り方について論じたもので、柳生宗矩のために書かれました。
主な内容としては、心が特定の物事に囚われると、体や行動が不自由となり、迷うと心身が停止するといった状態を良しとせず、達人の域に達した武人の精神状態や心法を「無意識行動」として捉える考えが述べられています。この「無意識行動」は心が常に流動的であり、「迷わず、捉われず、止まらず」といった状態を意味します。沢庵はこの不動智を「答えより迷わず=結果より行動」という禅の問答で説明しており、実質的には心の持ち方を中心にした兵法書として位置づけられています。
さらに、この書は徳川将軍家の兵法指南役である柳生宗矩に与えられ、後の武道に大きな影響を与える作品として認識されています。その他に、沢庵が執筆した同種の著作として『太阿記』も存在します。
また、日本国外では、オイゲン・ヘリゲルの『弓と禅』で一部紹介されており、日本の古来の武道や禅の思想との関連性が研究対象として注目されています。