『椿説弓張月』(ちんせつゆみはりづき)は、江戸後期の読本で、曲亭馬琴の著作に、葛飾北斎が挿絵を手がけました。全五編29冊から成り立ち、文化4年(1807年)から文化8年(1811年)にかけて刊行されました。版元には平林庄五郎と文刻堂西村源六が含まれます。
物語の内容は、日本史上の英雄、源為朝の生涯を中心に展開されます。彼は九州に下り、八町礫紀平治を家来に迎え、白縫姫と結婚します。しかし、保元の乱で敗れ、伊豆大島に流されます。その後、大島から脱出し、兵を起こすものの、海上での暴風雨によって琉球に漂着します。琉球では、尚寧王の姫との間での策略や戦いが繰り広げられ、為朝は琉球を平定。さらにその子、舜天丸が琉球王に即位するという物語です。
この作品は、馬琴が中国清代の白話小説や日本の古典から受けた影響を基に、史実と伝説、そして虚構を巧みに組み合わせて創作されました。特に為朝が琉球に流れ、その子が琉球王となるという設定は、史上不遇の英雄を再評価し、大衆の心情に訴える狙いがありました。その雄大な構想と絢爛たる文章により、馬琴の代表作として『南総里見八犬伝』と並ぶ評価を受けています。