『成唯識論』(じょうゆいしきろん)は、インド大乗仏教の著名な論典で、法相宗の根本典籍として知られています。この著作は護法によって書かれ、世親が著した『唯識三十頌』に対する注釈としての性格を持ちます。
「ヴィジュニャプティ・マートラター」は「唯識」を意味し、「シッディ」は「成就」を意味します。そのため、この論典は「唯識による悟りの成就についての論」を中心に扱っています。
中国の唐代に、玄奘がこの論典を漢訳しました。もともとは護法を含む多くの学匠の説が記された大著でしたが、玄奘の訳出時に護法の学説を中心として編集されました。日本にも伝わり、法相宗の基礎として、そして唯識の教学として長らく研究されてきました。
注釈書として特筆すべきものに、玄奘の弟子・基が著した『成唯識論述記』があります。これは玄奘の口述に基づくもので、唯識学の根本聖典として位置づけられています。その他にも多くの注釈書や解説書が存在し、近年では新しい訳解説も刊行されています。