敦煌莫高窟第17窟でポール・ペリオによって発見された『維摩経』断簡。裏面は『吐蕃賛普伝記(中国語版、英語版)』。
維摩経(ゆいまきょうまたはゆいまぎょう)は、大乗仏教経典の一つで、サンスクリットでの原名はVimalakīrti-nirdeśa Sūtraです。サンスクリット原典は残っていないものの、チベット語訳と漢訳の3種が知られており、特に鳩摩羅什訳が広く用いられています。
この経典は、在家の居士であるヴィマラキールティ(維摩詰、維摩、浄名)が主人公として登場します。彼は病床にあり、釈迦の指示で多くの弟子や菩薩が見舞いに行くことになるのですが、彼らはかつて維摩に論破された経験から、維摩との対話を避けていました。最終的に文殊菩薩が見舞いに行き、維摩との対話の中で究極の境地を示す沈黙を迎えます。
経典の中では、般若経の「空」の思想を受け継ぎながら、実践の中での実践的な指導が強調されます。特に、「空」の哲学的な考察よりも日常の中の実践としての「空」が語られています。
維摩経は、初期の大乗仏典として、戯曲的な構成で古い仏教の教えを批判し、大乗仏教の「空思想」を強く前面に出しています。特に般若経との比較で、呪術的な要素が少なく、経典を読誦することの功徳よりも、日常生活の中での実践を重視する姿勢が際立っています。
日本においても、維摩経は仏教が伝来した当初から非常に人気があり、聖徳太子による注釈『維摩経義疏』をはじめ、多くの注釈書が著されています。特に禅宗では、この経の教えが非常に重んじられています。