「金剛般若波羅蜜経」、通称「金剛経」は大乗仏教の般若経典の一つで、サンスクリット本、チベット本、漢訳本として様々なバージョンが存在します。特に、漢訳本の中でも鳩摩羅什による訳本が最も古く、かつ名高いものとされています。
金剛経は比較的短編の経典で、その内容は3世紀以前の大乗仏教初期に既に成立していたとされています。経典の特徴として、通常の般若経典と同様に「空」の思想を説くものでありながら、「空」の語彙自体は一度も用いられていない点が挙げられます。
また、経の冒頭では「ある時ブッダは舎衛国の祇園精舎に1250人の修行僧たちとともにおられた」と述べられた後、主な参加者の名前を列挙せずにいきなり本編が始まるという、原始的な経典の特徴を示しています。
この短編でありながら凝縮された内容から、金剛経はインド、中央アジア、東アジア、チベットなど様々な地域で普及し、多くの注釈書が作られました。特に東アジアでは、禅宗の第六祖である慧能がこの経の一句で大悟したとされています。その影響力は禅宗を始め、天台宗、三論宗、法相宗、真言宗といった宗派、また、儒家・道家に至るまで広範に及び、多数の註釈・講義が成立しています。