『文心雕龍』(ぶんしんちょうりょう)は、中国の六朝時代、具体的には南朝斉の末期から梁の初期にかけて、文人劉勰(りゅうきょう)によって著された文学理論書です。この書は、中国で初めての体系的かつ総合的な文学理論書として高く評価されています。
全10巻、50篇から構成されており、その中で劉勰は文学の本質や原理、各ジャンルの発展や変遷、さらには創作論、修辞論、作家論、文学環境に関する問題など、幅広いテーマについて論じています。タイトルの「文心」とは文を作るための心意気や注意、そして「雕龍」とは美を雕刻する、つまり文を磨き上げる技巧や工夫を意味します。劉勰はこの書の中で、文学の技巧や装飾だけを追求するのではなく、真の美や文学の本質を尊重する姿勢を示しています。
六朝時代は中国文学史上、文学が独立した形で発展を遂げた時期とされ、『文心雕龍』はその代表的な記念碑的な存在です。しかし、この書は単なる文学理論だけでなく、六朝時代の文化や時代背景も反映しており、歴史や文化を学ぶ上でも非常に価値のある書物となっています。
また、同時代の鍾嶸の『詩品』や昭明太子の『文選』序とともに、中国文学評論史上の最も重要な作品の一つとして位置づけられています。